Null「青空」録音やミックスの話

ども…。この度、Null「青空」のレコーディング、ミキシング、マスタリングを担当させていただきました、坂口です。

一昨年フロントマンの五十嵐さんから依頼を受けまして、昨年2月から録音を進めていきました。場所は僕のバンドのレコーディングでもお世話になっているSTUDIO CRUSOEです。
録音が終わったのが7月なので、結構長期戦でしたね…。間が空いてたので実際に録音してた時間はそこまで長くはありませんが、楽器を変えて録り直したりその場で思いついたアイデアを色々試したりと手間をかけました。

曲ごとに話をしていきたいのですが、その前に各楽器の録音について全曲に共通している事をさらっと話していきます。

 

【ドラム】

ドラムセットはスタジオの物をお借りしました。ここのドラムセットの音、好きです。ビンテージらしいです。
ドラマーの福佳さんの好みを聞きながらチューニングやミュート等の音作りをしていきました。個人的にスネアやタムのピッチを曲で使われているスケール内の音に合わせると曲に馴染む感じがするので、そうしました。
マイキングに関しては基本的によく見る感じのアレなんですが、マイブームになっている手法があるのでそれを試しました。

床にギリギリ付かないぐらいの低さにマイクを立てて、その音に強めにコンプをかけて混ぜる、という手法です。
スティーブ・アルビニ氏が床にマイクを置いていたのに着想を得てこんなマイキングをしてみたのですが、コンプをガッツリ掛けたせいかデイヴ・フリッドマン的な効果になりました。コンプはスタジオの1176を使わせて頂いたのですが、実機は極端な設定にしても音が破綻しにくい感じがしますね。
あとは福佳さんの演奏頼りでした。

 

【ベース】

ベースは曲ごとに違う竿を使ってレコーディングしてます。どれも良い音でした。スタジオのDI、持ち込みのDI、アンプに立てたマイクの3回線で録音し、そのバランスで最終的な出音を作ってます。とは言っても楽器と演奏が良いのでこっちではほとんど何もする事がありませんでした。ありがたいですね。
ベースアンプはスタジオに置いてあるAmpeg B-15Nを使用。竿との相性も良く鬼に金棒という感じでした。マイクはD112をセレクト。ベースの音域を難なくカバーしてくれました。

リズム隊の録音の様子。

 

【ギター】

バッキングは五十嵐さんのジャガー、リードはでこさんのファイヤーバード(ノンリバ)と五十嵐さんのジャガーを曲に応じて使い分ける形で演奏されてました。ノンリバのファイヤーバードを初めて実際に見ました。格好良いギターでした。
アンプは主にツインリバーブを使用。
マイクはSM57とMD421という鉄板の組み合わせに加えてR121を使用。R121は初めて使わせていただいたのですが、主に低い帯域(弦の鳴りよりも下の、ピッキングした時にン゛ッってなってるとこ)をカバーできて、お二人の楽器との相性も良かったのではないかと思います。
DAW側ではギター1本につき3トラックになる訳ですが、それらのパンを微妙に変えて、音像が点ではなく面になるようにしました。でも基本的にはギター2本を左右に振るのはいつもの僕の手法と変わってません。この定位、ライブ感があって好きなんですよね。

ギター(五十嵐さんパート)録音の様子。
でこさんの写真がありませんでした、ゴメンナサイ…。

 

【ボーカル】

歌に関しては五十嵐さんのパフォーマンスの良さが全てでしたね。機材の話とかしなくてもいいぐらい…。
歌入れはボーカリストのコンディションに大きく左右されるものですが、今回は調子の良い時に録れて大変幸運でした。

そんな感じです。

 

それでは曲ごとの話をしていきます。

 

1. 青空

「青空」というタイトルでこのダークな曲調…。「僕は青空が大嫌いで♪」、こういう裏切り方、好きです〜。syrup16gの「夢」を連想させますね。
BPM自体は遅めなのですが、フレーズの組み方が倍テン的でなかなか一筋縄ではいかないノリの曲だと思います。
ドラムはパツパツバチバチ系を目指してミックスしました。自分の曲ではアンビエンスを思いっきり歪ませたりするのですが、このバンドでは汚すぎる音はあまり合わないかなと思ったので、刺々しさとクリアさの塩梅をシビアに調整しました。
ベースはプレべを使ってました。曲調に合ってて良かったです。五十嵐さんがバツヲさんに対してピッキングで歪ませてほしいという感じのリクエストをしていたのですが、バツヲさんの楽器でそれをするのはなかなかハードだった様子でした。録音後にバツヲさんのプレベを少し弾かせてもらったのですが、コンプで例えるとスレッショルドがめちゃくちゃ高いような感じで、めっっっちゃくちゃ強くピッキングしないとバキバキした音が出ないという恐ろしい楽器でしたね。まるで修行のような録音でしたが、苦労していただいた甲斐あって格好良い音が録れました。「先生!」の所のドカーン!って音とか、「愛情や♪」の所のドコバンバン!って音も暴力的に決まってて思わず現場で笑顔になりました。
ギターも両者とも派手にやってて、録っていても楽しかったです。イントロとかは音色から殺意を感じて非常に良かったですね。
2Aは元々ギターは入らない予定でしたが、バツヲさんの提案でエフェクトをかけたハーモニクスのフレーズが入り一気に幻想的な雰囲気になりました。ベースの音色との対比が緊張感を生んでいてゾクゾクしますね。
何と言ってもギターソロが強烈ですが、ディレイをかけてウェット音の定位を動かすのはバツヲさんのアイデアです。イングヴェイの何かの曲を参考として聴かせてくれた覚えがあります。何の曲でしたっけ?
アウトロはリードギターのフレーズが秀逸です。テンションノートとクラスタボイシング(コードの中で音をぶつけるやつ)を用いたフレーズで、曲のダークさを一層際立たせていました。録音中にこのフレーズが出てきた時はコントロールルームの中で皆で盛り上がった記憶があります。フレーズは良いけど何か物足りない感じがありましたがビッグマフを掛けてもらったら全てが解決しました。

 

2. しらふの夢


良い曲ですよねー!!個人的な好みで言えばこの曲が一番グッと来てます。
なんというか、切なさとか名残惜しさを感じる曲ですね。アニメのエンディング見てる時みたいな気持ちになります。
ミックスに関しては青空のようにグイグイ行く感じではなく一音一音を大事に聞かせる事を意識しました。マスタリングしてて気づいたんですが他の曲より歌が前に出てますね。
そんな感じでこの曲は個人的には歌に注力してました。サビがファルセットで入るんですが、録音時に僕から「そこもっと女々しく歌ってもらえませんか?」的な注文をしました。我ながら分かりにくい注文だなあと思いますが、デモを聴いた時からなんとなくイメージがあったので言ってみました。
この曲の主人公って、失ったり傷ついたりしながらも何か目指すものがあって孤独に歩んでると思うんですよ。なので弱い部分を見せるポイントがあると人間らしさが出るんじゃないかと思いまして…。そんな訳で「女々しく」なんて分かりにくい注文をしたのですが、五十嵐さんは難しいなあと言いながらも歌いこなしてくれました。ありがとうございました。
ちなみにサビのハモリのメロディーラインは僕が考えました✌︎
ドラムはイントロやAメロなどで普通にスネアを2拍4拍で叩かず変則的なリズムパターンで叩いてるのが面白いポイントですね。最後のサビやアウトロで満を持して(?)2拍4拍のフレーズになるのが気持ち良いです。最後のフィルインでリバーブがかかるのは福佳さんのアイデアです。(福佳さんはリバーブが好きみたいですね!)
ベースは何と言ってもソロが聴きどころですね。格好良く決めてくれました。拍手👏
その後のCメロの歌の裏でさりげなく5拍ずつのフレーズを入れてて恐ろしかったです。

3. 灰になる


syrup16g感のある曲ですね。
繊細なニュアンスを必要とする曲で、リズム隊、特にドラムの録音で試行錯誤した記憶があります。五十嵐さんが福佳さんにシンバルの叩き方を指南する場面もありました。Nullは五十嵐さんのビジョンがはっきりしてて、尚且つそれに応えられるメンバーが揃っているのが素晴らしい所だと思います。儚さを感じさせる演奏が曲にマッチしてて非常に良かったです。
ベースの音も凄く良かったです。この曲で使われてたジャズベの音が個人的に一番好きですね。ジャズベにしてはかなりどっしりとしたローが出ていて、尚且つ反応の良さや粒立ちの良さもあるという化け物みたいなベースでした。録音の際はドライな音の方が曲に合ってそうだったのでベースアンプの前に衝立を立てて録ってみました。メンバーからも好評で嬉しかったです。
リズムギターはジャキっとした音でリズムを作りながら引っ張っていくような感じです。ジャガーって独特な鳴り方しますね。曲のイメージに引っ張られてるかもしれませんが、コードストロークの音に儚さがある気がします。
リードギターでは開放弦を使ったアルペジオが多くて僕好みでした。
それとAメロでは弾いてるか弾いてないか分からないぐらいピアニッシモで弾いたフレーズが出てきたりして、こだわりを感じて好きでした。あとサビが3回あるんですが、それぞれフレーズを変えてるのがドラマチックで好きですね。3サビの後のフレーズもフィナーレ感があって格好良かったです。職人。
サビの前にフィードバックを入れるのは五十嵐さんの提案でした。良い感じのフィードバックがなかなか出なくて苦労した覚えがあります。
2サビの前の「お前のせいだ」も五十嵐さんのアイデアで、マイクから離れて歌った声を録りました。こういうハッとさせる演出があると締まりが出ていいですね。
3サビの後の合唱はNullの全員で歌ったものです。Nullは五十嵐さんがボーカル!ってイメージだったのでこの提案をいただいた時ちょっと驚きましたが、録ってみたらかなり良くて不覚にもウルッと来てしまいました。
ちなみにC414を2本立ててステレオで録ったものを2つ重ねてます。合唱を録ったのは初めてで手探りでしたがうまく行ってよかったです。
ミックスでは空間をどう作るかで結構迷いました。歌詞が具体的でパーソナルな内容なので、広がりを持たせるよりは部屋っぽい空間を認識させる方向で進める事にしました。
最後のサビは想いを馳せている部分なのでディレイを使ってそれまでよりも開けた感じを演出してみました。これも好評でよかったです。
そして「じゃあね」で終わるのがクールですね。空虚な現実に引き戻されるような締め方が見事です。

 

曲ごとの話は以上です。
Nullは前回の音源も僕が担当したのですが、その時よりも良い演奏をしてもらえたと思いますし、僕もより良い音で録れた気がします。自分もバンドも成長できたと実感してます。でもまだまだ行ける感じはあるので、これからも試行錯誤していきたいですねー。

そして来月9月9日はNull主催のライブがあります。僕が所属しているバンドEmpty Classroomも出演します。

https://twitter.com/_Null_0000/status/1672143592792662016?s=20

出演者にお声がけいただくか、会場にご連絡いただければ予約できます。よければ来てください〜。

ではまたお会いしましょう。Null「青空」をよろしくお願いします!