アニメ「ステラ女学院高等科C3部」を視聴した

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ステラ女学院高等科C3部(しーきゅーぶ)(全13話)、視聴完了。

Twitterのフォロワーが「方向性の違い、ギスギスを描いている」と言っていて気になったので見た。

面白かった。interestingの方。

サバゲーを題材にした作品で、俺には全くその趣味は無かったのだが、大いに楽しめたし、何よりも大和ゆらという人間に惹かれた。

C3部の個性豊かで萌え萌えなキャラクター達ももちろん魅力的なのだが、やはり主人公である大和ゆらの物語としての側面が大きい。

(ちなみに初瀬カリラと陸奥ほのかが好き。金髪と眼鏡っ娘が好きだから)

3話の大会でゆらが自ら降参を宣言してしまった事、榛名凛の勝利至上主義の思想に触れた事から、それまでサバゲーを楽しんでいたゆらの言動は少しずつ変化していく。

それ以降のゆらの"強くなりたい"、"勝ちたい"という言動からは、自分のせいで負けてしまった事に対する自責の念が伺える。その真面目さ、責任感の強さが彼女の特徴の一つだ。ただ、1話冒頭でも描かれている通り、彼女は人見知りでもある。回想シーンでも中学で孤立している様子が描かれており、根が深い。

真面目さ故に熱心に行動するが、そこにはコミュニケーションが不足している。思い込みと自己判断で突っ走り、ますます周りが見えなくなる。ディスコミュニケーションをきっかけに、彼女は少しづつ周りとすれ違い、孤立していく。

6話はギャグ回かと思いきや、先述の中学時代の回想が挟まれたり、文化祭のゆら対そのらのシーンでは、そのらが子供の危険を防ごうとした隙を突いてゆらが勝利するという、後のゾンビ事件にも通じる"勝利への執着"が滲み出ているシーンもあり、ゆらを理解する上で重要な回となっている。

ゆらの変化は7話以降が激しいが、それ以前からも少しずつ描かれており、突然の豹変という訳ではない。

その、コミュニティが少しずつ崩壊していく様がリアルだ。"ディスコミュニケーションをきっかけに少しずつ上手く行かなくなっていく"事例を俺は何度か経験しており、俺自身が性格的にその原因になってしまった事もある。だから、ゆらのネガティブ思考で思い込みが強く周りが見えなくなるところ、団体戦なのに一人で何とかしようとするところに心当たりがありすぎて胃が痛かった。

7話でゆらを庇ったそのらが負傷、入院するという事件は、ゆらをますます追い詰める。勝手な大会へのエントリー、勝利への異常な執着、独りよがりな指導…と、ゆらの過剰な責任感が裏目に出てしまい彼女とC3部員の溝はより深まっていく。変わりたいと思っていたゆらが良かれと思って起こした行動が、また彼女を孤立させる結果になってしまった。皮肉。

そして大会決勝戦、ゆらはゾンビ行為を行い不正に優勝してしまうのだが、その後の彼女の行動からは、生き方に対する迷いが伺える。凛のように勝利至上主義に振り切っているのであれば、後日ゾンビ行為を自ら大会運営に報告するという事はしなかっただろう。しかし、ゾンビ行為に手を染めず真っ当に敗北する、という事ができるほど誠実にもなり切れなかった。そのらを怪我させてしまった事や、大会期間中C3部を主導してきた事に対する責任感の強さ故に後に引けない気持ちもあったのだろうと思う。

ほのかがゆらに「一人で抱え込まないで」と声をかけるシーンがあったが、そう言われても人見知りにはどうすればいいか分からない。人との接し方が分からないから、人に頼る方法が分からないし、自分一人で全てを解決しようとしてしまう。だから自分勝手な行動をとってしまう(自分では良かれと思っている)し、上手く行かないと自分を責める。そして更に抱え込んでしまう。

10話、ゆらが凛率いる明星女学園サバゲー部にて活動するのだが、その中で凛がゆらに対して放った言葉が心に刺さったので、書き起こしてしまった。

「あなたは、私やそのらに自分の理想を求めている。そして、勝利による称賛で、自分の存在を示そうとしている」

「それは、他人に自分の存在を押し付けているだけ」

「自己犠牲も同じ。全てあなたの自己満足」

「いいえ、違わないわ。一見人のために見える行動でも、あなたは常に見返りの称賛を求めている」

「結局、あなたは自分の事しか考えてないのよ」

核心を突いた台詞ではないだろうか。これが聞けただけでも、このアニメを見てよかったと思う。

真面目に、必死に励んできたゆらがこの仕打ちを受けるのは不憫だが、羨ましくもある。俺も十代の頃に同じ事で悩んでおきたかった。

居場所を失い途方に暮れるゆら。留学によってC3部を去ることになってしまったそのら。残されたC3部員が企画した「そのちゃんお別れサバゲー大会」に向かって、物語は収束していく。

11話はそれまでのわだかまりに対するアンサーが提示される非常に重要な回。C3部員は「ズレを見て見ぬ振りをしたのはダメだった」と省み、ゆらは丁次郎と再会し「自分を認め、人を認めろ」と助言を貰う。

そしてついにゆらがC3部に復帰、12話では盛大にサバゲー大会、最後に人見知りを克服したゆらが描かれる…という形で終わる。(13話については割愛)

 

視聴後に監督のインタビューを読んだが、これがかなり良かった。

web.archive.org

監督が大和ゆらという一人の人間を切実に描こうとしていたのが分かる。主人公がルーザーである、という点にも監督の想いがあり、それに心を打たれた。リアルでオルタナティブなアニメだ。このような作品が存在してくれている事が、本当に有難い。

『ステラ』を監督できて、本当に色々勉強になりました。客観的に観ても、こんなにガチで人見知りを描いたアニメはほかにないなと思います。その意味では、ひとつ「勝ったな」という気持ちはありますよ。

監督、あなたの勝ちです。

また、ネットを見るとゆらを非難する声が多いが、人見知りの俺としては悲しい気持ちになる。普通の人には共感されないのか…と。

ゆらを悪者にするのは一般論としては正しいだろう。ただ、ゆらのように人見知りだったり、生き方に悩んでいる人達、先述のインタビュー内の言葉で言うと"ルーザー"側の人も沢山いる。そんな人達にとっては、ゆらは自分を投影する鏡であり、社会で生きるためのヒントにもなり得る。少なくとも俺は、このアニメに出会えて良かったと思っている。

以上。

ステラ女学院高等科C3部、ありがとう。